11.予兆

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週明け月曜日は、前の週とは打って変わって、時間が穏やかに流れていた。 お昼前に出先から戻って、あや美とみちると、どこにランチに行こうかなんていう会話すら生まれた。 仕事中にこれ程余裕が出来たのは、なんとなくだけど、上司達の振る舞いと仕事配分が絶妙に変わったせいだと気がついたのは、ランチでやはりその話になったから。 「今日は、簡単なコピーは自分でやってましたねぇ、室長」 「お茶入れてくれって、言われなかったです」 「週末になにやら方針の打ち出しがあったんですかねぇ」 あや美の分析だ。私もそう思う。多分、本部長辺りからトップダウンが成されたのだろう。 滝沢さんの代わりは入らない上、上層部のゴタゴタに巻き込まれて、ブラックになりつつあった我が社のここ暫くの過密業務。 確かに、ちょっとしたことで回避できるのではないかと思わないでもなかった。でも言えないでいた。 流石に目に見えてバタバタしていた部下達の様子を見れば、なんとかしなければと思うのが我が本部長なのだ。 今日の変化の陰に、本部長の鶴の一声があったのだと、容易に推察できた。 オフィスに戻る途中、エレベーターホールで四方堂君と遭遇した。あや美がはしゃぐ。 「よ、お三人さん。いつも楽しそうで羨ましいな」 四方堂君は、私達3人へ公平に笑顔を振りまいている。 「なんか、すっかり営業が板についてきたって感じね」 「芽衣子さんたら、嫌味なんて言っちゃダメですぅ」 ぷっと笑ってしまった。 「嫌味じゃないわよぉ」 ふと、早川先輩との約束を思い出した。 「ちょっと、今、時間いい?」 あや美達は気を利かせて、やってきたエレベーターに乗り込み、『お先にぃ』と笑って手を振って行った。
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