1.厄日

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あや美の話では、こういうことだった。 あの若草色のポーチの持ち主は、我が部署の派遣で、守谷みちるという21歳の最年少。 みちるは昨日の昼休み、ポーチに入れていた替えのショーツが無くなっていたことに気がついた。 それがお気に入りのショーツだったから、悔しくて悔しくて、周りの数人に打ち明けたんだそう。 後で、代わりのショーツが戻されていたけれど、盗られたショックは収まらず、『正体暴いて絶対訴えてやるって、物凄い迫力で息巻いていた』とあや美。 私はあや美に分からぬように、ため息をついた。自分が犯罪者にされてしまう、と恐怖さえ感じていた。治まっていた腹痛が戻ってきた。 『でも、知られるわけはない。今、分からないなら、知りようはないはず…』あのショーツは確かに高級感があって、捨てるのは勿体ないけれど、やはり捨ててしまおう。 これは犯罪?窃盗罪なの?捕まらなければ罪にはならない…訳はないけど。 みちるに告白して謝罪しても、丸く収まるとは思えなかった。きっと容赦なく断罪するに決まっている。 鬱屈とした思いを抱えてはいたが、午後もスムーズに業務を終わらせることができた。 そう言えば、四方堂君は出張かしら?最近、外回りが増えている。営業でもないのに。 四方堂君のことを考えていた時、当の本人からメールの着信があった『今夜会えないかな?』とあった。 私は、『今夜は実家に帰るの』と、嘘の用件で四方堂君を袖にした。こんな事は珍しい…嫌、初めてかも。 私はいつだって、四方堂君からの誘いをほいほいと受け、尻尾(無いけど)をぶんぶん振りながら後をついて行った。 流石に四方堂君だって分かってるはず。自分の婚約話が、私の不信を買ったことを…。
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