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「早川先輩の反応はどうだった?」
四方堂君との会話に無駄話はいらない。すぐに核心に触れてくる。
「うん。いろいろ…聞かれたし、いろいろ聞いちゃった」
なにを?なんて無粋な返答はしないと分かっていた。
南雲さんが言った、『四方堂は松浦さんのことを好きなんだよ』との言葉が脳細胞の隙間を駆け巡るのを、意識の外に追い出すのに苦労した。
「でも、結果については」
「うん。喜んでくれていたよ。本部長からすぐに連絡が来たって。ご両親からも頭を下げられちゃった。大したことはしてないから、気恥ずかしかったけど、まぁ力を尽くしてくれたみんなの代表だと思って受けたわ」
「お前さぁ、自分の役割がどんなに重要だったのか、分かってないなぁ」
人が集まるエレベーターホールから離れて、ビルの案内板のかかっている壁面に2人でへばりついて話していた。殆どの人に気付かれない死角。
「あのさ、近いうちに先輩が上京してくるって言うの。3人で飲みに行く話、進めていい?」
「ああ、もちろん。楽しみにしてるよ」
「お互いに積もった話もあるだろうし、真相聞いたら、四方堂君、ビックリするわよ」
なんだそれ、なんだよぉとの四方堂君の抗議を躱して、降りてきた金属の箱にタイミングよく乗った。四方堂も。
ほどほどに混んでいたため、四方堂君は口を噤んでいたが、顔を振り仰ぐと目が合い、なにか言いたそうに訴えてくる。
『じゃあ、先輩から連絡来たら知らせるね』私はそう囁いて、後ろ手に手を振り、自分のオフィスの階でサッと降りた。
四方堂君に対して、ドキドキもワクワクもなかった。もう、センチな部分はすっかり流し切れたのだ。
今更、何があると言うのだ。さっき、四方堂君は四方堂君で、実はその瞳の裏に、南雲さんの電話の件が気になっている感情が隠れているような気もしていた。
『南雲さんからは何もないし、あったとしても四方堂君には関係ないもんね』
私の心は、既に四方堂君とのことを過去にしてしまったのだ。
『不倫なんて…絶対に嫌だ』
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