11.予兆

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小皿のナッツには、レーズンも入っていた。レーズンは、ナッツもそうだけど、女子としては食べておきたい。 ビールとナッツでお行儀よく飲んだ。プハァなんてやらない。 「今夜は珍しくおひとりなんですね」 ひと心地ついた頃合いに、突然話しかけてきたバーテン君。まだ20代前半ぐらいか、チャラい感じの青年からまさか話しかけられるとは思いもしなかった。 しかも、何度か来ていたことを覚えとるのか、君ぃ。 「…暫くご無沙汰だったけど、よく覚えてましたね、私のこと」 つい探るような目つきで見てしまう。 「いつも待ち合わせの人が来てからビール頼んで、1杯飲んだらすぐ出ていったから。つい想像しちゃってた」 「え、想像って?」 「だから、この後やるんだろうなぁとか」 「な…」 絶句した。そして、顔は真っ赤になったであろう。つい俯いてしまった。ポーカーフェイスでやり過ごせばいいものを。 「すみません。イヤラシイ意味ではないんですよ。あれ?違うか…冷やかしてるとかじゃなくて、ううん、すみません、フォローできてませんね」 バーテン君は眉を下げ、済まなそうに謝ってはくれた。 他人のそういった事情に対して、遠慮会釈なく口にする君はある意味すごいよ。 「いえ、いいんだけどね…」 フォローって何にさ。ああもう、やんなっちゃう! 会社の人たちの目が届かなそうな界隈で会っていたけれど、個人を知らなくても、こうやって他人の行動に目を止める人が実際いるのだ。 『それに、確かにその通りだ。ヤルために私達は会っていたのだから』 なんとなく、気分が沈んでしまった。不快な気分。四方堂君との行為を見られたような不快さ。自分の最も生理的で恥ずかしい部分…。 ビールを一口残し、千円札をカウンターに置いて、私は店を後にした。 「また来てくださいねぇ」 後ろから声をかけられたけど、振り向く気にもなれない。もうここへは来ないと、それだけは決めていた。
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