11.予兆

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『あと8時間ぐらいか』なんなら、駅前まで戻って、ファミレスかカラオケ店という手もあったけれど、なんだか自分という人間に試練を与えたくなっていた。 さっき、バーテン君から四方堂君との関係を指摘された。辱めにあった。やるだけの関係を責められたような感覚があった。 『寒い…お尻が冷たいよぉ』 そもそも、お気軽手軽にセフレなんかになったのがいけなかったんだ。早川先輩が、私と四方堂君がお似合いだと傍から思っていたのなら、自然と付き合う結果になったかも知れないのに。 『…だとしても、結婚に至るとは限らないけどね』 結婚願望がないと言いながら、四方堂君が結婚してくれなかったことに拘っている。私ってどんだけ天邪鬼なんだろう。 早川先輩の件も落ち着くところに落ち着いたんだし、なにか新しいことを始めよう。 毎日、疲れた顔でアパートに帰るだけの暮らし。もし、20年後にも同じ暮らしをしているとしても不思議はない。 やるかやらぬか、だ。人生が後悔ばかりじゃつまらないではないか。 そこまで考えた時、いきなり真上から声が降ってきた。 「おい、なにやってる」 ビクっとなって、サッと顔を上げると、やっぱりな感じでアイツが立っていた。 「お、あ、いや。なんともお恥ずかしい」 私は一応照れて見せた。人様に見せたくはなかったが、時間も早いし、コイツどころかアパートの他の住人に見られるかもしれなかったのだ。 「まさかと思うが、鍵を無くしたか?」 「その、まさかです」 ヒュッという音を立てて息を吸い込み、ヤツは「ウソだろ」と、絶句した。 はいはい。言葉無くすほど呆れましたよね。
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