48人が本棚に入れています
本棚に追加
窓に取り付いたままの体勢で広瀬を振り返ると、ソファーに横になったまま私を見つめる瞳と行き合った。
「あ」
「…大家さん、起きた?」
いつも以上に低いのんびりとした寝起きの声。
「うん。起こしちゃってごめんなさい」
広瀬に毛布を返すと、バッグを持って玄関に向かう。広瀬は起き上がってこない。まだ眠いよね。
「いろいろありがとう。助かりました…それじゃ、また」
私はペコリと頭を下げて、靴を履くとサッサと外へ出た。
『また』と私は言ったな…また会いたいのだろうか、今夜のお礼にまた会うべきと思うのか、と心の中で自問自答する。
大家さんへは、かなり恐縮しながら訪問した。『おや、またですか』は、嫌味というより、面白がっているように感じた。
「そそっかしくて…」
すみませんは10回は言ったと思う。
鍵を受け取ると、もう大家さんに預けるのはやめておこうかという気になっていた。
「こういう事があるからうちに預けていたらいいよ」
そう言いながら、大家さんは笑顔で頷いていた。私はじわりと涙が滲み、慌ててガバッとお辞儀を返すのが精一杯だった。
今度は、夜中でも遠慮しなくていいよとも言ってくれ、間違いなく大家さんは、私の中で親以上の順列となった。
親と大家さんを秤にかけられるほど、親には失望し、大家さんには恩義を感じたということだ。
自室に帰り着くと、ホッと安堵の溜め息を漏らす。なんだか物凄く眠くなってきたが、ここでベッドでひと休みとかは有り得ない。起きるのが拷問並みの辛さと悟っていた。
まずはお風呂に入ることにした。お湯が溜まるまでの間に、朝ごはんの準備を済ます。
途中何度も、チラリチラリとベッドへの誘惑。『午後から行けばいい』という、悪魔の囁き。
でも、頑張る。ここで頑張らなければ、自分に甘いヤツと思われるだけ。
『ん?誰に?』
誰でもいい、私自身でも、天の神様でも守護霊様でも!
最初のコメントを投稿しよう!