11.予兆

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窓に取り付いたままの体勢で広瀬を振り返ると、ソファーに横になったまま私を見つめる瞳と行き合った。 「あ」 「…大家さん、起きた?」 いつも以上に低いのんびりとした寝起きの声。 「うん。起こしちゃってごめんなさい」 広瀬に毛布を返すと、バッグを持って玄関に向かう。広瀬は起き上がってこない。まだ眠いよね。 「いろいろありがとう。助かりました…それじゃ、また」 私はペコリと頭を下げて、靴を履くとサッサと外へ出た。 『また』と私は言ったな…また会いたいのだろうか、今夜のお礼にまた会うべきと思うのか、と心の中で自問自答する。 大家さんへは、かなり恐縮しながら訪問した。『おや、またですか』は、嫌味というより、面白がっているように感じた。 「そそっかしくて…」 すみませんは10回は言ったと思う。 鍵を受け取ると、もう大家さんに預けるのはやめておこうかという気になっていた。 「こういう事があるからうちに預けていたらいいよ」 そう言いながら、大家さんは笑顔で頷いていた。私はじわりと涙が滲み、慌ててガバッとお辞儀を返すのが精一杯だった。 今度は、夜中でも遠慮しなくていいよとも言ってくれ、間違いなく大家さんは、私の中で親以上の順列となった。 親と大家さんを秤にかけられるほど、親には失望し、大家さんには恩義を感じたということだ。 自室に帰り着くと、ホッと安堵の溜め息を漏らす。なんだか物凄く眠くなってきたが、ここでベッドでひと休みとかは有り得ない。起きるのが拷問並みの辛さと悟っていた。 まずはお風呂に入ることにした。お湯が溜まるまでの間に、朝ごはんの準備を済ます。 途中何度も、チラリチラリとベッドへの誘惑。『午後から行けばいい』という、悪魔の囁き。 でも、頑張る。ここで頑張らなければ、自分に甘いヤツと思われるだけ。 『ん?誰に?』 誰でもいい、私自身でも、天の神様でも守護霊様でも!
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