11.予兆

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それにしても鍵はどこで失くしたのだろう。湯船に浸かりながらのんびりと考えてみた。 以前の2回は、どちらも会社だった。飲んで帰ったとか、四方堂君との逢瀬の時だったりで、一瞬パニクった。 翌朝出社してみたら、デスクの上で私を待っていたかのようにそこにあった。 会社になかったら、交番に遺失物届けを出さなければ。でも、どこで失くしたか心当たりは聞かれるよね。なら、まずは自分で探そう。 「会社…ご飯や…LR…か、駅、電車バス、だね」 JR、都バスは電話で問い合わせばいい、会社は自分で探せる、ご飯やも帰りに寄ってみる、LRは…行かないとダメかなぁ。嫌だなぁ、またあのバーテンと話すの。 でもねぇ、このまま失くしたままというのも良くないよね。 今日一日で心当たりを当たろうと決めて、ザブンとお湯から上がった。 ゆっくり支度しても、かなり時間を余らせていた。私は、早いが、部屋にいたらうっかり眠ってしまうような気がして、とにかく出勤することにした。 物凄くスムーズに神田まで運ばれた私は、少なくともあと30分をカフェで過ごそうと道道考えてきた。 普通にコーヒーを飲み、眠気を覚ます試みに励む。きっかり30分後、カフェを出ると、いつもながらのメンツの人並みを確認できた。 オフィスは一番乗り。たまに一番にはなるが、大抵はギタイの古株の人が一番乗りだ。 鍵は、なかった。会社ではなかった。 私は仕方なしに今日の業務を始めることにした。
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