1.厄日

25/38
前へ
/310ページ
次へ
終業時刻間際で悪いがと、ちっとも悪気など無いような気安さで、室長からお使いを頼まれた。本部長のところへ書類を持っていき、認印を貰って来ること。 私はあや美とみちる達に帰宅を促してから、本部長のオフィスに向かった。 昨日の今日というのは、正直キツかったけど、本部長の機嫌次第ではうまく乗り切る自信はあった。 本部長室のドアをノックしてからドアを開け、「失礼します」と一礼して入る。 緊張はなかったが、本部長の顔を直視することができない。 「室長からで、こちらに目を通して、認めを頂けますか?」 なにも無かったかのような、すっとぼけた物言いが功を奏したか、本部長は、私のミスも飯島課長のことも忘れているかのような対応で、極自然体だった。 『やっぱりあれは、感情的なものから出た、咄嗟の脅しだったんだ』 確定したわけでもいないのに、私はドッと安堵した。 室長のお使いを済ませると、そそくさと荷物をまとめた。またなにか用事を頼まれる前に帰らないと。 「お先に失礼します」 誰へと言うわけでもなく言うと、足早にオフィスを後にした。 明日は忘年会だし、今日は真っ直ぐ帰ろうと、冷蔵庫の中を思い出す。 『やっぱり買い物しないとだめか』と、スーパーに寄ることにした。そうすれば、明後日の土曜がゆっくりできるし。 最寄りのスーパーといえば、バス停からアパートを通り過ぎ、数分の場所にある。帰りがけに寄ると言うより、わざわざ行く感覚なので、私はできるだけ休日にまとめて買い出しするのが常だった。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加