11.予兆

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私は両手を万歳したあと、普通に話し出した。 「会社のゴタゴタ、お耳に入りましたか?」 南雲さんは、あの日退社して以来、一度も出て来なかったらしい。 「聞いたよ。あの展開には流石に驚かされたね。矢崎さんが反撃しないで終わったなんてね」 「反撃、期待していたんですか?」 グラスの水に口をつけながら、頷く南雲さん。 「僕の知る限り、あの人は折れるような人じゃないから」 「…リスペクトしていたんですね」 深い意味合いは無かったが、非難と取られても仕方ないような質問だった。南雲さんは、少し間を置いて答える。 「善し悪しは別にして、僕はあの人を凄いと感じてきた」 なるほどね。南雲さんは営業マンだ。踏まれても踏まれても折れないファイティングスピリットがリスペクトされて当然だ。私はそう理解した。 料理が、絶妙なタイミングと絶妙な量で運ばれてくると、私はいちいち吐息を漏らすことになった。 「なかなか美味いでしょ?」 自信満々の南雲さん。ご自身は味わうよりも、私へのおもてなしが上手くいってる現状に満足気なのだった。 ワインが苦手だと言ったら、甘めの白なら?とゴリ押し気味に問われ、大人なんだしまいっか、と頷いたドイツの白。名前は一瞬で忘却の彼方。ところがこれが、なかなか美味しい。 確かに、南雲さんには、一歩先から手を引いて導いてくれるような頼もしさを感じる。 「高松、行ってきました。南雲さんにご協力頂いことも含めて、早川先輩には洗いざらい報告してきました」 意外でもないのだろう、そう、と呟いただけの南雲さん。 「…いろいろ片付いて、良かったです。私、南雲さんのことは全然知らなかったのに、こんなふうに出会って、すぐいなくなられて。南雲さんとは不思議なご縁だったなって」 「え?知らなかったの?」 「はい。吉森さんとは一度間接的に関わった仕事があったのですが、それでも見事に忘れていて。一生懸命思い出して、名前だけはなんとか思い出したんですが」
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