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吉森さんのくだりは気にもとめないで、『知らなかったとはね…』と、いつまでもぶつくさ呟く南雲さん。
仕方なく、ワインをお酌してみた。
「まぁいい、それはいいんだ…」
落ち着きなく、南雲さんは、メインのフォアグラとキャビアの魚介のナントカという一品を完食。『?』
どうしたのだろうかと思っていたら、南雲さんは、デザートとコーヒーを店主に断っている。
「え、なんでです?食べたいのにぃぃ」
こんなに美味しいお料理だよ!デザートへの期待値はもうマックスなんだ!
「ちょっとおいで」
南雲さんは、会計をテーブルでササッと済ませて、私が立ち上がるのに手を貸してくれた。いちいちスマート。
「割り勘にしてください」
こういうタイプの男性には、無駄な申し出だとは思うが、一応の感じで言ってみた。でも、やはりスルーされてのウィンク。
狭い路地を抜け、通りを歩きながら、南雲さんは私に歩調を合わせて横に並んだ。
「松浦さんが、元々僕と早川さんとのことも知らなくて、僕の存在も知らなかったとすると、君にとっての僕という存在は、この2ヶ月ちょっとの間のことが全てなんだね」
南雲さんは一転、静かな口調になっていた。
「はい、そういうことになりますね。なんか、すみません」
知らなくて。社内でも有名な人らしかったのに、私ったら。
南雲さんは、はぁと息を一つ吐いて、私に笑顔を向けた。
「それじゃあ、うんと言わせるのは無理そうだけど、敢えて言わせてもらうね」
『?』南雲さんは立ち止まり、私達は歩道の真ん中で向き合う形になった。
「あのぉ…」
「僕と結婚を前提に付き合って欲しい」
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