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あんまり驚いて、持っていたバッグが肩からズルりと落ちた。反射で手で受けたが、バッグの重さが急に気になり出して『なんで今日はこんなに重いのだ?』などと、余計なことを考え始めている。思考が逃避していた。
私の顔には、その逃避の中身がダダ漏れだったのだろうか。
「答えは今でなくても構わないから」
いつに無く、真摯な面持ちの南雲さんに面食らうが、ナントカ気持ちを冷静に保って思いを巡らせた。
『私にその意志はない…有り得ない』
私は、バッグを肩に戻して、南雲さんを促し再び歩き出した。横目でチラチラ南雲さんを見ながら問いただす。
「南雲さん…早川先輩への気持ちは、もうすっかりないのですか?」
南雲さんは、『早川さんか』と独りごちてから、のんびりと私に笑いかける。
「彼女は僕にとってはもう過去なんだよ。君だってよく分かっているよね。それとも、先輩に気まずいのかい?」
過去?そうなの?完全に気持ちがゼロなら、あんなふうに先輩のことを心配してくれたのは…なぜ?
「南雲さんは、私のことは気の迷いっておっしゃいました」
「ああ…」
私は次第に興奮してきて、少し早口になっていた。脳裏には早川先輩の寂しそうな笑顔が浮かんでいる。
「もし!もしもの話ですけど、早川先輩が南雲さんとまた付き合いたいって言い出したら?焼けぼっくいには火はつかないって保証はありますか?それとっ、私が、もしも子供のできない体なら?それでも結婚したいですか?というか、そもそも!南雲さんは私のこと好きなんですか?結婚したいほど好きとか愛してるとか、南雲さんからは全く感じませんけどっ」
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