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打ち合わせが控えていたので、うどんを注文し、ツルツルっと食事を済ませた。
会計の時、店員というより店主の奥さんらしきひとに、日にちと大体の時間帯を告げ、鍵の忘れ物はなかったかと尋ねた。
『忘れ物は2週間預かった後、警察に届けるからあったならまだあるわね』と言いながら、レジの下からお菓子の缶を取り上げて中身を確認する。が、『残念』というひと言と憐れむ視線に出合った。
あとは、LRだ。気が進まないが、今夜中に行こうと思っていた。
室長との待ち合わせは6時45分。駅前からタクシーなのが嬉しい。
赤羽にある業者、室長は神田から山手線で向かうところ。私は東京駅で菓子折りを二つ買って、時間ギリギリでなんとか間に合いそう。
待ち合わせはスムーズ、打ち合わせも至って順調に進み、予定していた時刻通りに終えることができた。初めての訪問という訳でもないし、担当者とも顔見知り程度には打ち解けていたからかも。
室長は、一度社に戻るとのことだったので、駅で別れた。
時刻は8時半。新宿へ向かう。
運良く席にも座れて、『なんか順調だぁ』と気分は浮つく。LRのバーテンとも気持ちよく打ち解けられそうにも感じている始末。
こういうのを有頂天とも言う。夜の新宿の喧騒を歩いていた時、ハタ!と私は立ち止まった。
恐る恐る、自分の両手を見る。そして、そのままその手で頭を抱えた。
『菓子折り二つ、ない…』置き忘れた場所は、すぐさま見当がついた。赤羽の業者だ。
大家さんへと広瀬に買った『御礼兼お詫び』の品だった。
もう取り返せるはずもなく、私は1分前の自分の有頂天ぶりを呪った。
よくよく気をつけていても、人より劣る注意力。自分に腹が立つ。なぜ、気をつけなかった、私!
途端にLRに向かう速度が落ちた。
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