11.予兆

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赤羽の業者の担当は、40代男性で、厚かましい性格をひた隠している。 多分、挨拶後にすぐさま打ち合わせが始まったことで、手土産を渡すタイミングを逸したのだろうと、都合よく解釈したに違いなかった。 『次に会った時にお礼を言われるのだろうな』 にしても、紙袋二つなんだから、忘れ物かも?とは思わないかな、もう! 携帯がウンともスンとも言わないことにも腹を立てていた。 ブツクサと腹の中のモノが口から漏れて、行き交う人達からすれ違いざまに顔を見られた。 スグそこに伊勢丹。私はタタっと店内へ。パパッと菓子折りを二つ買い直した。売り場で、ハンカチを使って紙袋とバッグの持ち手を結びつけた。『これでバッチリ』だ。 店員さんは、『ありがとうございましたぁ…』と、不思議そうな顔つきで私を見送っていた。 LR到着。 私は深呼吸をして、ドアを開けた。カウンター内には彼のバーテン君。 「いらっしゃい、あ」 キョトンとしている。まさかまた来るとは、と顔に書いてあった。 『来たくなかったんだけどね』とは言わず、「こんばんは」と、一応の挨拶。ビールを頼んだ。 平日のためか、いつもより客足は疎らで、バーテン君ものんびりとグラスを磨いている。 「この前は失礼なこと言っちゃって」 ビールとナッツを並べながら、バーテン君が声を掛けてきた。『言っちゃって』じゃないでしょ、すみませんでしょ、とも言えず。 「ああ、いいの、別に気にしてないから」 ここは大人の対応。ビールを飲んでいたら、小腹が空いていたことに気がついて、ピザを頼んだ。
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