11.予兆

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田中君と呼びつけると、田中君はデスクにへばりついていた顔を上げた。手元には件のチケット。顔が笑っていた。『いつか酒に溺れるような人にはならないでよね』と、本気で心配になる。 「残念、金曜日はあやみと女子会なんだよん」 私は悪魔のような笑顔で言ってやった。田中君は上がっていた口角をガクッと下げ、悲しげな表情で私に何かを訴えかけていた。意味は分からない。 あや美は、田中君の事は速攻で地の果てに追いやって、瞳をキラキラさせて、私の顔を見つめてきた。口元で、『じょしかい?』と首をかしげる。 私は、うんうんと頷いて親指を立てる。 「やっぱ、やろうかと思って。みちるもね」 意気揚々と船出をするように、時折振り向いてはこちらに手を振って、あや美は外出先へと出掛けて行った。 みちるがひとまず落ち着いた頃を見計らって、金曜日の予定を聞くと、何もないとの事だったので女子会の話をした。 やはり、中止は残念に感じていたとの事で、残業にならないように頑張りますとの返事だった。 意外なことに、企画室で初めての女子会なのだ。あや美じゃないけど、私だって興奮するぐらい楽しみだったりする。 という訳で、今夜は少し無理をするぐらい頑張らなければならない。 午後から営業部担当者と打ち合わせ。そして、報告書、会議に出す資料作成…。 合間に、昨日の業者と電話での擦り合わせ。やはりと言うか、『昨日はお気を使わせちゃってどうも。二つもってことは、一つは社長宛てですかねぇ』と、厚かましくも聞いてきた。 でもまぁ、喜んでもらえて良かったと思うことにしようと思った。 私のドジのせいで人に迷惑をかけることは重々承知していたことだが、喜んでくれる人、楽しんでくれる人もいるってことをようやく認める気になっていた。 だからといって、反省しなければいけないし、自分のミスは自分の責任で取り戻す意識は努めて持ちたい。
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