12.三つの恋と三つの愛(一)

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アパートに戻ったのは12時を大きく回った頃だった。 楽しい気分のまま眠りたかったから、余計なことはせずにお風呂を済ますとすぐベッドへ。 明日の夜、『10時を過ぎるけど、芽衣子さんのアパートに直接伺います』と、先輩から連絡があった。私は待つだけ。 翌朝、ゆっくり寝たいだけ寝て、起きたら10時になっていた。洗濯機を回しながらブランチして、掃除を念入りにした。 その後、昼過ぎに駅前の派出所に出向き、なくした鍵の届けをした。形、ナンバーを聞かれ、『?』だったので、手持ちの合鍵を見せて同じものを探してもらうことにした。 『他になにか特徴は?』と聞かれ、やっと茶色いべっ甲風の靴べらが付いていると話すと、『靴べら?』とお巡りさんの目が笑っていた。 届けられていないと分かり、ガッカリしながらアパートに戻るも、予備の鍵と菓子折りの袋を一つ持って、大家さん宅を訪ねた。 大家さんは熱烈歓迎してくれ、居間に通してくれた。私は遠慮しながらも、懐かしいおばあちゃんの家のような風情の大家さんちが、実は好きなのだ。 「その節はありがとうございました」 菓子折りを手渡し、そっと鍵を差し出した。 「厚かましいのですが、出来ましたらまた預かって頂きたいと思いまして」 恥ずかしかったけれど、この近距離にスペアキーがあると思うだけで、かなり心安かった。大家さんは快諾して、早速手提げ金庫に仕舞ってくれた。 お茶とお菓子を頂いて、大家さんと少し話をした。 見掛けないと思ったら、大家さんの奥さんは入退院を繰り返していて、家にいても殆ど外出をしないそう。 お子さんはとうに巣立っていて、遠方で居を構え、お盆かお正月に一度顔を見せに来るだけだと言う。 知らないって薄情なものだ。大家さんに勝手に恩義を感じながら、大家さん個人の事情を知ろうともしなかった。
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