12.三つの恋と三つの愛(一)

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大家さん宅を辞して、一旦部屋に戻り、もう一つの菓子折り袋を手に、今度は広瀬の部屋に向かう。 いないといいな、などと天邪鬼な気分だった。が、ノックをすると、『はい』という返事が聞こえ、気持ちを固めた。今日は、お礼とお詫びに来たのだ、と呪文のように自分に言い聞かせる。 開いたドアには広瀬の寝ぼけた目と寝癖のついた髪が、たった今起きたことを物語る。 「あ」 「あ…ごめん、寝てた?」 この前のお礼とお詫びですと、菓子折りを渡してすぐ立ち去ろうとしたけれど、広瀬は相変わらず強引に私を引き止めた。もしや、極度の寂しがり屋なのか? 広瀬の部屋は3回目。今日は少し散らかっていた。机の上にはなにかやり掛けのノートやパソコンが広げられていたし、ベッドは乱れ、脱いだ服は散乱。キッチンも、洗ってない食器が溜まっていた。 「なんか、お取り込み中みたいね」 広瀬は、ちょっと肩をすくめ、まず服を拾って洗面所に運び、次々と手際よく片付けをしながら訳を話した。 「昨夜、徹夜したんだ。今夜仕上げる予定でね」 「なにを?」 「博士論文」 「あれ?」 知らなかったが、まさか学生? 「仕事は研究員。医学部の研究機関にいて、自分のキャリアアップのために取っておこうと思って」 私には別世界で別次元の話に、『へぇぇ』しか出てこなかった。 広瀬は、キッチンの洗い物を始めたので、私はその傍に立ち、話を続けた。 「そういえば、鍵、見つかった?」 「それが、まだ。心当たりは全部探したし、あちこちに問い合わせたし、警察にも届けたんだけどね」 お湯を沸かし始めた広瀬。どうやらお茶をいれてくれるらしい。
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