12.三つの恋と三つの愛(一)

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「なんかさ、俺も毎日チェックしている訳じゃないけど、結構帰り遅いよね」 コーヒーをドリップでいれてくれ、私達はソファーと床上クッションに分かれて小さなテーブルを挟んで向かい合った。ソファーは私だ。 「そお?普通に仕事してるだけだけど。まぁ、たまに飲んだり」 「職場の飲み?」 「昨夜はね。最近いろいろあったから。慰労の意味も込めて、後輩達と」 「いろいろって?」 まさかそこの所を突っ込まれるとは思わなかった。けれど、突然、私は『話したい』衝動を覚えた。渇望するように、広瀬に話して聞かせたくなったのだ。 広瀬には興味無さそうな話になるけど、と断ってから、『会社のゴタゴタ』と先輩の恋愛事情や懲戒のことも含めて話した。 時々、頷いたり質問したり、広瀬は割りと良い聞き役だった。コーヒーのお代わりもいれてくれ、結局、1時間ほど掛かって話し終えた。 四方堂君とのセフレ関係、私のドジ話は割愛しつつ、凡そ漏れなく話したと思う。この人はなんの利害もなく、紛れもない部外者で無関係な他人だ。私はそういう人に話を聞いてもらいたくなったのだ。 本部長や矢崎部長がどういう人で、南雲さんや真山さんのキャラとか吉森さんの風貌とか諸々の情報を知らない人に、客観的に起こった事実だけを聞いてもらう。 話し終えた私は、そのままソファーの背に寄り掛かり、大きく息を吐いた。ちょっと疲れたかも。 「あのさ、松浦さん?」 「ん?」 ボケっと虚空を見つめていた私は、広瀬に焦点を合わせる。 「なんか、かっこいいな、アンタ」 『へ?』 「かっこいい」 なぜか、広瀬は一人で照れて、キッチンに立った。『言われた私の方が照れるわ!』
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