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広瀬は、『コーヒーばっかじゃ飽きるから』と、ココアをいれてくれた。この前の時と同じく、ちょっとほろ苦の。
私は、つい、「このココア、私好きかも」と呟いていた。
広瀬は無言。
「…私のこと、前から見かけていたって言ってたけど、いつからのこと?広瀬はここにいつから住んでるの?」
広瀬のことも聞いてみようと思い、そもそもの事から聞くことにした。
「ここは2年前からだよ。松浦さんのことは割りと初期の頃から知ってた。俺、人の顔は覚えてる方なんで」
「そうなの?なんか、やだなぁ。一方的に知られてるっていうの」
「そお?」
「恥ずかしいじゃない。気の抜けた顔してるの、見られたりするでしょう?特にに仕事帰りの私の顔は酷いから」
広瀬は笑って、そうでもないよと取り繕った。
ふと、机の上のデジタル時計に気がつく。そろそろ4時半になる。帰らなければ。広瀬も論文の仕上げがあるだろう。
「話、聞いてくれてありがとう。論文、頑張って仕上げてね」
そう言って腰を上げた。飲み終えたカップをキッチンまで運ぶと、広瀬がそこまで来てカップを受け取ってくれた。
「論文は頑張るよ。目標があるからな」
「目標?」
「いや、目的か。俺にとっては大事なこと」
「ふぅん。まぁ、頑張ってくれたまえ」
私は、深く追究するのはやめて、広瀬の肩をポンポンとたたいて玄関に向かった。
「ついでに言うと」
と、広瀬は至極マジな感じで冗談を言い放った。
「松浦さんに大変な関心がある。俺と、つき合わない?」
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