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先輩は無言だった。少しして、身じろぎのような音が聞こえた。目をやると暗闇の中に、先輩が身を起こしたシルエットが見えた。
「まさかと思うけど、南雲さんから頼まれたの?…いえ、違うわね。一体どうして?」
「困らせていたらごめんなさい。これは南雲さんの意思ではないんです。でも、私にはなんだか分かるんです。南雲さんは、私に協力してくれた。それは、早川先輩への気持ちが残っているからなんじゃないかって」
「でも、それは…ただ、私が可哀想だったからよ。南雲さんとはなにもなかったし、もうかなり昔のことだから…これからもなにも…始まることはないわ」
先輩は布団の中に潜り込んだようだ。寂しそうな声だった。寂しげに微笑む先輩の顔が浮かんだ。
「先輩。先輩と南雲さんは、仰る通り、なにも始まっていないんですよ。だから、これから始まる可能性もあると思うんです。2人は無傷で真っ更なままなんです」
私には、先輩を説得できるような気がしていた。根拠といえば、先輩に幸せになって欲しい願望と、南雲さんの一途な思いを信じたいがためだ。
「…私、思うんですけど、滝沢さんが私を陥れたことには、私や先輩にとってそれ以上の意味があったように思えるんです。ちゃんとここに繋がっていたんです。もっと言えば、先輩の解雇の件だってちゃんと意味のあることだったんです」
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