1.厄日

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今朝、電車内のネットニュースを見ている時、今夜の天気予報を目にしていた。『確か、今夜からまた雨なんじゃなかった?』 一晩だけ降って、朝の通勤時間帯までには上がると知り、胸を撫で下ろしたんだっけ。 私は、部屋に戻り、携帯で天気を確認することにした。 すると、やはりまとまった雨が短時間降るとのことだった。昨日は雨を呪ったけれど、今夜の雨は恵みの雨だ。 明日の朝には、あの黄色くてドロドロしたものは雨できれいに流されているはず。きっと誰にも気づかれないうちに。 今まで生きてきて、ごみをポイ捨てしたことすらなかった私。公共の意識はかなり高いとの自負があった。だから、道を汚したことに、思いつめそうなほどの罪悪感が胸に迫っていた。 携帯の画面を見ながら、胸をなで下ろした。 でも、暫らくすると、またもや私の心は暗くなった。 『みちるのショーツを盗ったくせに…さっきアイツに嫌な言葉を吐いたくせに…四方堂君の着信を無視した癖に…』 最大の厄災は、私の人間性が失われていくことなんじゃないかと思えてきた。 思わず手の中にある携帯を握りしめていたら、突然、携帯が震え着信を知らせた。 『え、四方堂君!?』ちょっと忘れかけていた四方堂君の婚約。胸がシクッとなった。 「もしもし…四方堂君?」 出るか出ないか、迷ったのは多分1秒未満。出ると決めたのは、これ以上、人に不義理はしたくなかったから。悪徳を積んで不幸になりたくはない。四方堂君には、少なからぬ恩があるのだ。 「芽衣子?今、実家?」 『あそうだ、実家に行くって嘘もついてたっけ』 「四方堂君、急用なの?」 「う…ん、急用というか、芽衣子に話したいことがあって。ゆっくり話したかったけど、今ダメならまた明日にでも…時間作ってくれないか?」 四方堂君は、こういう押しも強かったんだっけ。私は四方堂君への復讐心をとっくに手放していたことに、この時気がついた。
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