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「…久しぶり」
「お久しぶり、です」
こんなぎこちない早川先輩と南雲さんを初めて見た。お互いにはにかみながら改まって挨拶を交わしていた。
「やっぱり2名で」
私は速攻で、コンシェルジュに言い、は?となったコンシェルジュと、先輩達に『じゃあ、私達はこれで』と言い残し、四方堂君の袖を引っ張って店を出た。
「おい、どういうこと?なぁ…そういうこと?」
四方堂君が歩きながら私の背中に言葉を投げた。
「そ。そういうこと」
「おお!」
四方堂君は頬を紅くして瞳をきらきらさせていた。
「なんだよ、これ。お前、これは…」
なんだか興奮著しいので、走ってやった。四方堂君は笑いながら追いかけてくる。
私は手近なカフェに入った。
カフェは賑わっていた。明るい店内は木目が清々しい印象で、心無しか、お客さんも明るい雰囲気だ。
コーヒーを注文して、受け取って小さなテーブルに運ぶ。四方堂君は、ニコニコして、私の説明を待っていた。
「南雲さん、俺らのこと完全に眼中になかったな」
確かに、南雲さんは店に入るとすぐ、早川先輩を見つけ、その視線を一度も外さなかった。
「それが全てを物語っていると思わない?」
「うん…そうだな」
四方堂君は、恋愛が下手だ。今にして思えば、そうなのだと合点がいった。
誰かを必死に追いかける時、なり振りなんて構ってなんかいられないのだ。
「一度掴んだら、もう絶対に離してはダメ…」
私は意味深な言葉を吐いたらしい。四方堂君は少し黙り込む。
早川先輩からライン。『南雲さんといろいろ話し込みそう。遅くなるけど、芽衣子さんのアパートに戻るからね』とあった。
良かった。たくさん話してお互いさらけ出せれば、きっと理解し合えるはず。
私は思いを込めてOKスタンプを送った。『幸せを掴んで、先輩!』
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