13.三つの恋と三つの愛(二)

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早川先輩が私のアパートに戻ったのは、深夜11時を回った頃だった。 予め、食事は済ませたことと、戻り時刻を知らせるラインは貰っていた。 「おかえりなさい。先輩…」 「芽衣子さん」 迎えに出ると、先輩は玄関先で私に抱きついた。ギュッと肩を抱いたのだ。私はされるがままでいて、そっと先輩の背に手を当てた。 お互いの体温を感じるほどになって、先輩が呟くように言った。 「南雲さんと一緒に暮らそうかな」 えっ、そこまで話が進んだの? 「南雲さん、なんて?」 先輩は私から離れて、ふふっと笑って部屋に入っていった。 「なんだか、いろいろあったけど、南雲さんとちゃんと話すの初めてだった。芽衣子さんのお陰で、私達、やっと始まったんだなぁって思った」 桜の花が咲いたような淡い紅色の頬の先輩は、今までで一番綺麗だった。 詳しく話すからと言って、お風呂を先に頂きたいと言うので、私は辛抱強く先輩を待つことにした。 『先輩、幸せそう…良かった』 私は先にお風呂は済ませていたので、寝床を用意して、アルコールは飲むかどうか分からなかったけれど、枝豆と乾きものをテーブルに並べた。 実は、私も先輩に話したいことがあったけれど、もしかしたら先輩の今の幸せ気分に水を差すかもしれなくて、話し出せないかもしれなかった。四方堂君とのことと広瀬のこと。それから、不意に意識した退職のこと。 サクッとお風呂を済ませた先輩と、取り敢えずチューハイで乾杯した。 先輩と桜色の話ができるなんて、私にも春が来たような気分になっていた。
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