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「なぜかと言うと、俺が渡米することが決まった。1ヶ月後だ。行けば8年から10年帰れない。松浦さんには一緒に来てもらいたいと思ったからそう言ったんだけど、なにゆえかと問われれば、好きだからかな?茶飲み友達としてではなく、女としてだよ」
相変わらず翔んだ発想の持ち主だ。好き?何言ってんだか。
「好きだから渡米に付き合えって、自己中過ぎやしない?私の気持ちがどうとか、まずそこを確認しなさいな」
広瀬は、あぁそうだな、と呟く。
「松浦さんは俺のことどう思ってる?あ!もしかして、彼氏いるの?」
なぜか急に慌てだした。私に彼氏がいない設定だったんだな。くそぉ。
「…彼はいない。別れたばかりだから、今は誰とも恋愛する気がないの。あと、一応仕事してるし、だから渡米は無理です。ごめんなさい」
私は、わざとサラリと言ってやった。広瀬はノリでこんなことを言うやつかもしれない。私はノリなんかで渡米なんて無理だ。
「そうなの?そっかそっかぁ、無理かぁ…」
さしてショックにも見えず、広瀬は組んだ両手を後頭部に充て、天井を仰ぎ見ていた。というか、なにか考えているみたいだった。
「つかさ、なんでアメリカへなんか行くことになったの?」
『米の大学病院の研究機関からの招聘』だと、広瀬が教えてくれた。ある研究についての論文が認められたのだそうで、『簡単に』説明されたけれども内容はマッハで忘却した。これは、広瀬が学生時代から目指していた目標なんだそう。
私は『おめでとう。良かったじゃない。向こうでも元気で頑張ってね。世界の未来のために』と、門出の言葉を贈った。
広瀬は不満顔で帰っていったのだが、帰り際、『なにか言葉が足りなかったのだな』と、私になのか独り言なのか呟いていた。
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