1.厄日

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会社に着けば、まるで心を入れ替えたかのように、始業前に席に着き仕事を始めていた。 誰にも気がつかれないほど小さな前進だけど、なんとなく、一昨日の厄日を思うとこうせずにはいられなかったのだ。 誰も知らなくても、神様は見ている。そして、自分自身が、知っているのだ。 あや美と四方堂君が朝から話し込んでいた。今夜の忘年会の件だろう。 そういえばと、斜め前のみちるの顔を盗み見る。隣の席の、みちるよりひと回り年上の派遣社員と楽しげに話している。 一見すると、ショーツの件を引きずっているようには見えない。でも、思い出せばその怒りがぶり返してくるに違いない。 『忘れてしまおう。みちるには悪いけど、あんな時、誰だってそうするしかなかったのだと思おう』 このまま、罪悪感を引きずっていても仕方ないと思った。みちるには、その機会があれば、それと分からず罪滅ぼしをしよう…。 室長からの指示を自席で受けて、今日の動き方をシュミレーションしてみる。うん、定時で上がれる。まぁ、そのつもりで室長も指示を出すのだろうけど。 ふと、気がつくと、四方堂君はどこかに出掛けたようだった。行き先のホワイトボードには、外出とあった。 『なんか忙しそうだな』 同期なのに、この仕事量の差は、そのまま実力の差だ。 四方堂君はどんなに忙しくても弱音を吐かないで、とことんまで頑張る。 それに引き換え私など、残業が2時間を超えれば、お腹が空いたとか疲れたとか、いけないと思うのだけど、つい口をついて出てしまう。
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