13.三つの恋と三つの愛(二)

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「…叶うものではないと分かっています。ずっと側で仕事ができるだけで私は幸せなんです。芽衣子さんの笑顔が大好きで、時々、一緒にご飯を食べてお喋りして。でも…芽衣子さんがあの人のものになったら、芽衣子さんとのすべてが消えてしまいます。私、そんなこと…耐えられない」 あの人とは広瀬のことだ。渡米の話までしていた。あや美は話し終えたらしく、さめざめと泣いた。 不思議と不快ではなかった。長く、あや美に慕われていることが不可解だったから、納得がいったのかも。 それに…とても嬉しかった。その言葉をあや美に伝えた。 あや美は、明日からいつもの自分に戻るので、私にもいつも通りでいて欲しいと言った。この恋は男の人とは違う、性欲とか独占欲とか、そういう類のものではないから安心して欲しいと言った。 思慕、だろうか。私は、あや美の言葉のすべてを理解出来たし、その気持ちを本当に嬉しく感じていた。 あや美の家の事情は、ほんの一部分の聞きかじりだけど、忙しいご両親だったと聞いていた。下の子もいて、早いうちから、愛情を受ける側より与える側になっていたのだろうか…。 だから私には、拒否も否定もする気が起きなかった。あや美を諭したところで、傷つけこそすれ、意味はないと分かっていた。 『大丈夫だよ。人を好きになったあや美は素敵だよ。きっとあや美にとって一番いい人が現れるよ…』 日曜日は、あや美と連れ立って表参道に出掛けた。ほぼウィンドウショッピングだ。 行列のコーヒーショップを横目に通り過ぎながら、私はつい思い悩みそうになっていた。 昨夜のあや美の告白がきっかけという訳ではなかったが、私には考えなければならないことがあったのだと自覚していたのだった。
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