13.三つの恋と三つの愛(二)

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仕事は順調。一つ挙げれば、伝達ミスにより、打ち合わせを一件遅刻したことぐらい。 我が部署の新星、田部君のお陰で、私が皆の注目を集める役目を終えたような気がしていた。 もちろん、田部君は優秀な人材だ。私のようなおっちょこちょいではない。田部君は、とにかく面白いのだ。取手さんとのコンビネーションも笑いを誘っている。 あや美は言葉通り、普通に毎日『芽衣子さん、芽衣子さん』だ。心無しか、田中君との絡みが増えたような気もしている。 外出先からの帰り、遅いランチをとろうと会社の近くの定食屋に入りしな、四方堂君とバッタリ会ったのは木曜日だった。 四方堂君は、あれ以来、電話もメールもしてこなかった。四方堂君から言われた言葉は覚えていたけれど、気まずい気持ちは、私の方にはなかった。 「今、昼?やっとるなぁ」 四方堂君は食事を済ませて立ち上がったところだったが、私のテーブルにあっさり座り直していた。 「四方堂君の抜けた穴は大きかったものでね。まぁ、でも、田部君、有望株だから、今に四方堂君どころか私の分も…」 「なに?お前、本気で辞めるつもりなのか?」 軽い冗談のつもりだったけど、私の言葉尻を捉えて慌ててる。四方堂君は四方堂君で、あの時私が放った言葉を覚えていたようだ。 殆ど衝動とも言える言葉。『会社を辞める』その言葉に、ハッとさせられたのは、私自身だったのだけれど…。 「あれは、四方堂君がフラフラしないために咄嗟に出たのよ…でも、いつかはそういう時が来るかもしれないでしょ」 そのあと、四方堂君は『悪かったと思ってる』『芽衣子への気持ちはまだあるが、俺は俺でやっていかないとな』と、自分の我儘をそのまま伝えたことには恥じ入っているようにも見えた。
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