49人が本棚に入れています
本棚に追加
/310ページ
私達は、多分、これからも良い関係でいられるような気がしていた。今にして思えば、私と四方堂君にはこういう間柄が丁度いい関係なのだろう。
無理に結婚したところで、上手く行くとは限らない。と言うか、私は結婚しないんだっけ。四方堂君とは本気で結婚したかったのかなぁ。もしもプロポーズされていたら、結婚したんだろうか。
手紙の返事を書くことは諦めて、土曜日、広瀬のアパートを訪ねることにした。
午前中、掃除と洗濯をして、正午前に広瀬の部屋をノックした。
広瀬がジャージ姿で出てきた。ちょっと驚いた顔。
「暇だったらこれからランチ行かない?」
そんな可愛くない物言いで誘った。広瀬は驚きを隠しもせず、恥じらうこともなく、数秒固まってから『ひはは』と笑った。
「!」
笑った…なんで?笑うとこ?ひははって…馬鹿にしての?
自分がみるみる悪相になっていくのが分かった。やっとの思いで来たのに。
「もういい!」
広瀬が抑えていたドアを思い切りバン!とやって閉め、サッサと自分の部屋に戻って行った。
部屋に戻って『くそぉ!』と内心毒づいたが、どんどんへこんできた。
『勘違い女だ、私…からかわれていただけなのだ』と無理矢理に思い込もうとした。ハァァ…と息を吐き出した時、ノックの音。
もちろん、広瀬だ。
私は無表情を決め込み、ドアを開ける。
「ランチ、行こ」
さっきの『ひはは』は?とは聞かず、無言で靴を履き、ドアに鍵を掛けた。
急いで着替えたのだろう、広瀬は上下ともきちんとしていた。が、髪には寝癖。
並んで歩きながら、私は声も無表情に突っかかる。
「なんなの、君?」
「あ、気にすんな。俺って変わってるみたいだから」
「それは知ってるけど、失礼過ぎて頭に来る」
「ごめんごめん。まさかお誘いがあるなんて夢にも思わなかったからさぁ」
「大人なんだから、もっとスマートにやってよ」
「はいはい、がんばりまぁす」
ランチは概ね楽しかった。
最初のコメントを投稿しよう!