13.三つの恋と三つの愛(二)

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今、しっかり見えている。あの厄日が私にとってのボーダーラインだった。 それまでの私は、ぬるま湯の中でアップアップしながら、何年も何年もぐるぐるとマウスの如く走り回っていた。 あの日を境に、私は色んなことを考えることになった。嫌が応にもやらざるを得ない状況というのは変わらないけれど。 なにかが変わった。私は澱みを流れに変えられることを知ったのだ。それは、先を見据えて、とにかく自分が動くこと。 この数ヶ月。色んなことに気づかせて貰った。大層な成果を上げた訳ではないが、貴重な経験をさせてもらったと思っている。 でも、まだまだ人生の坂道悪路はこれから。きっといつか、何者かに試される時が来るんだろうと思う。 私は、それがどんな事だろうと、へこたれずに乗り越える覚悟ができたと思う。 そして、もし一緒に手を携えて乗り越えてくれる人がいたら、それはとても心強いことなんだと初めて思えた。 自分のことだけではない。私はこれまで、私であるが故に、他者への憐憫の情を抱くことが殆どなかった。自分のことだけで精一杯だったのだ。 私が知らずにいた早川先輩の痛み、悩み、滝沢さんの怨嫉。もし、そういうことに気が回っていたら、四方堂君の本音にも気づけていたと思える。私自身のアンテナの精度が問題なのだった。 誰かのために生きることと、自分が自分であることは一見相反するように見えて、実は表裏一体なのだと思える。人生という列車の両輪。同時進行で確立していける。つまり、他者の幸不福を我がことと思えれば、自分と他者の幸福を追求できるということ。 自分の足でしっかり立っているからこそ、他者に尽くすことができるのだと。
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