13.三つの恋と三つの愛(二)

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そしてそして。早川先輩と南雲さんは、付き合い始めてすぐ、早川先輩が再び上京し、一緒に暮らし始めた。 但し、先輩は頑なに入籍を拒んでいて、南雲さんの目下の悩みは、正式に夫婦になれないことらしかった。 でも、私にはいつも、南雲さんの幸せ自慢にしか聞こえなかったけど。 それと。実家の両親は、やっぱり多重債務がとんでもないことが分かって、自宅を売却した。 これには冬吾の説得が効いた。案外、頼りがいのあるヤツだった。 渡米の前に、一応、互いの両親への挨拶は済ませていたのだが、私の心にある足枷を打ち明けると、直ぐに動いてくれた。と言ってもアメリカとの通信上でだけど。 この事があって、私は冬吾との結婚を決意できたのだ。最初、渡米したとしても、入籍はしないつもりでいたのだ。 もちろん、冬吾は丸っきり最初から結婚するつもりだったらしいが。 両親の引越し先の賃貸マンションは、団地と名のつく、両親のプライドがポッキリ折れるような物件だったけど、住んでみたら良かったみたいで。 債務はきちんと整理され、今後の家計は父が管理することになった。 冬吾の言うところによると、お母さんのストレス解消と寛容と言う名を借りたお父さんの無関心が起こしていた問題なんだそう。家庭での役割を変えることで、状況はガラリと変わっていった。 母は気持ちが楽になって穏やかに、主導権を握った父はキビキビと自ら動き生き生きしている。 両親の変貌ぶりを目にした時は、長年の足枷が外れた瞬間を味わっていた。 退職までの1年の間、私は徹底的に英語漬けの日々を送った。苦手と思っていた英語は、実生活がかかるとなると興味だけでなく必死さも加わり、信じられないぐらい上達した。冬吾は、ゆっくりやればいいのにと笑ったが。
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