1.厄日

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四方堂君繋がりで、今朝方、家を出る前に散々悩んだあることを思い出し、足下のバッグに目を遣る。 今夜、四方堂君と会った時に渡せたらと、1週間前に用意していたクリスマスプレゼントを持ってきていた。 小さな紙袋に入った小さな包みを一つ、バッグに入れるだけで、かなりの時間を要した。 婚約者に知られたら事だろうとか、今更、私の気持ちが込められたプレゼントを渡すことにも抵抗があった。だから、バッグへ入れては出しを繰り返していたのだ。 結局は渡すことにして、持ってきた。 婚約祝いには相応しくない中身だから、仕事頑張ってるねでもいいし、クリスマスプレゼントをあげる相手がいないからなんとなく、とか、言い訳なんて適当にくっつけてしまえばいいと。 5時ぴったりに、あや美と私に会場の店へと向かうよう、室長から声掛けがあった。 あや美はそのつもりだったらしく、机の上を慌てて片付ける私を急かした。 オフィスを出て、急ぎ足で店に向かい、到着したのは5時を10分すら回っていなかった。 その店は、アジアンテイストの多国籍料理の店だと聞いていた。 会社からわりと近く、出入口は通りに面していたが、私は全く知らない店だった。 「四方堂さんのお勧めなんですよ」 まるでそれが自分の手柄のように、あや美が胸を張る。 白壁に黒い鴨居や梁が美しい。内装のテイストが素敵だと呟くと、フランス統治のインドシナ時代の内装を現地から輸入したのだと、あや美は付け加えた。 店は貸し切り。ほぼ正方形のフロアーの真ん中に、4人掛けテーブルを二つずつ繋げて、ロの字形にセッティングしてあった。 ロの字の角は、人が通れるように開けてあり、外側の一辺に3脚、内側には2脚の椅子が、互い違いに向かい合うようにセット済みだ。 本部長を入れて20人の宴会なので、よく考えられた席なのが四方堂君らしかった。
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