1.厄日

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あや美が説明する。 「これ、内側の席には若手と女子が座るのよ。で、上座のこの三つの席には、本部長と室長と次長が座るの。他は順に好きなところに座ってもらうんです」 なるほどね、と感心していたら、それでね、とあや美が説明を続ける。 「四方堂さんて面白いこと考えるよね。この内側に座る8人は、幹事の合図で次のテーブルに席をズレるんですって」 うひひという声音で、あや美が笑った。なんか楽しそう。 そんなこんなしていたら、四方堂君の引率で全員が到着した。 狭い入口で私が会費を受け取り、席へとあや美が1人ずつ案内する。 長い行列ができてしまった。私は、『お釣りのない方ぁ』と声を張り、少しでも早く行列が進むように工夫はしたが、後ろの方の、特におじ様連中には堪え性がないようで文句のようなことを私に言ってくる。 でも、『今日は私ではなく、幹事たちの裁量なのだよ、分かってくれ』と胸の中で叫ぶ。 幹事と私以外が席に落ち着くと、店のスタッフが甲斐甲斐しくグラスや食器を並べていく。テーブルの中央に、ビールとジュースを数本置いていく。 私はというと、宴会場の片隅、カーテンの向こう、トイレに続く洗面所で会費をまとめていた。 フロアーの声に耳を傾けながら、金額を確認し、封筒に入れ封をした。念のためにと持ってきた自分の印鑑で割り印を押した。 後で、あや美の手の空いた時にでも渡そうと、私はバッグに封筒をしまった。 そして、急いで自分の席に着いた。 誰かが既に私のグラスにビールを注いでくれていたので、早速始まった本部長の乾杯には間に合った。 宴は3時間続く。 だいたい、二次会無しで解散するのが我が部署の常で、そのために一次会で飲み残しとかやり残しの無いように楽しむのだった。 だから、幹事は余興とか仕込んでくる事もあるのだが、今回は料理がすごいからとの四方堂君の触れ込みだった。
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