1.厄日

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私の最初の席は、中堅どころの男性ばかりの島だった。特にプライベートな付き合いはない。だからといって知らない仲でもなく話題に困る相手だが、そこは大人同士。飲んで食べていれば、なんとなく話は進む。 30分もした頃だろうか、ピッチ早く、酔の回った一人が口を滑らす。 「そう言えば、松浦さん。こないだはヒヤヒヤさせられたねぇ」 会議に遅刻したことだ。私は、一度や二度、いずれ言われることは予測の範疇だったから、『すみません』と反射的に謝ろうとした。だけど、その言葉を吐く前に、本部長からなにやら告げられた話題で、私のその話は二度と話題に登らずに済んだ。 「…なんだそうだよ。四方堂君、ちょっと、ほら、おめでたいことなんだから」 室長がなにやら四方堂君をせっついていた。 私たちの島は聞き逃していたが、他の人たちの反応からして、だいたいの想像がつく。私はなんとなく暗い気持ちになり、手元のビールを飲み干して、ジョッキを高く挙げた。 店のスタッフが頷くのを見て、お代わりを待つことに集中していたかったが、隣の若手が私を肘でしきりに合図してくる。 「流石っすよねぇ、四方堂先輩。デキ婚つうのはなんか憧れますよ!」 興奮気味に拍手を送りながら、しきりに私を肘で突っつく。 「は?なんで?」 機嫌悪く、なぜデキ婚に憧れるのか、そこのところを是非とも追及したくなった。私って絡み酒? 本部長に背中を押された四方堂君は、恐縮しきりに頭をポリポリやり出した。顔など、もう真っ赤だ。 『やだ。あんな四方堂君』私は、急速に酔いが冷めるのを感じていた。
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