1.厄日

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その人は、私が席に来ると、開口一番に私の核心をついてきた。 「四方堂君に先を越されて機嫌が悪いのか?」 もしかして、さっきの不機嫌な表情を見られていたのかなと思った。 「まぁ、同期で男ですからねぇ。まさか男の同期に先を越されるとは思ってませんもん」 私はその人の早とちりに乗っかった。 「松浦さんはかわいいとこあるんだねぇ」 そうニコニコ笑って言った。 多分、もうすぐ定年だろうか。私なんて娘みたいなものだろうけど、そんなふうに目を細めて爺さん顔されても困る。 「嫌ですよぉ、かわいいんじゃなくて、行き遅れのヒガミですって」 口に出せば、本当のことのように思えてくる。 「松浦さんは四方堂君と仲良かったが、そんなでも僻んだりするもんかね?」 どうですかねぇ、私は分かりません。と言いたいところだが。 「しますします」 そう返して笑って見せた。もういいでしょ、その話は。 ところでと、私は話題を変えてやる。 もうかなり酔ってるみたいだから、あまり細かいところはどうせ覚えてなんていられないだろうと思った。 こんな感じで次の席替えでも、飲んで食べて、代わり映えのない会話が続いた。 和やかだったり、時には、若手や昔取った杵柄的にベテラン世代が一発芸を打ち上げてくれる。これが我が部署のいいところ。楽しむ時は全力で楽しむのだ。 ラスト45分、最後の席替えで、私はとうとう本部長の島、トリオ・ザ・管理職の島へとやって来た。 若手と女性従業員全員と話すことを目的としたこのローテーションは、もしかしたら本部長の差し金か、単なる四方堂君の遊び心かいざ知らず。
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