1.厄日

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玄関扉の鍵を締めるやいなや、私は全速力で駆け出した。足元や肩が濡れるのもお構い無しに。 最寄りのバス停まで徒歩5分。だがもう、バスの到着時刻まで1分を切っていた。ここのバスは、遅れてくることはほぼなかった。そして、この便を逃すと完全に遅刻だった。 『うぅ…お腹痛くなってきた…』 生理初日から3日目まで、私には痛み止めは必需品だった。なのに、その痛み止めを飲んでくるのも持ってくるのも忘れてしまった。 『早いとこ買って飲まないと…』 だけど、会社に着くまでにそのような余裕などあるはずもなく。 髪振り乱し、必死の形相で駆ける私。道行く人は、驚いて振り返ったり慌てて避けたり、冷ややかに口元で笑う人も。 そういう時の気恥ずかしさは、今はどうでも良かった。何より朝礼に間に合うためなら、他の人にどう思われようが取るに足らないことだった。 あの角を曲がれば、直線で50メートルほど。『間に合うかな…』 角を曲がった時、バスが私を追い抜いて行った。バス停には5人ほどが並んでいた。 『あと少し。お願いぃぃぃ…!』 必死の念力も出ていたかも。私は恥も外聞もなく、バッグと傘を持つ両手をバスの後ろ姿に振りまくった。運転手に見えているだろうか。意地の悪い運転手なら無視されてしまうだろう。『あぁ、神さま…運転手さま、お願い…!』 到着したバスに、1人2人と足早に乗り込んでいくのが見える。3人目はビジネスマン風の中年男性で、俊敏に乗り込み、次の女性も難なくバスに吸い込まれていった。最後の大学生風の男子が乗り込むと、無情にも、バスの扉はビィーッと音を発して閉じてしまった。
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