2.終わりと始まり

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「足りなかったのは2万。芽衣子、確かにちゃんと確認したよな?」 四方堂君は弱ったなという表情だった。もしかしたら、今夜は婚約者と会う予定だったのかな? 「四方堂君、あや美、聞いて。私は、お金のことは、それだけはちゃんとしたいといつも思っているの。だから、大げさなのは承知で割り印までしたのよ。それでも、こういう結果になった以上は、私の責任なのだから、これの弁償は私がするわ」 真剣に2人に訴えた。もしこの2人から、疑われたり雑な仕事をしたと思われたりしたら、私はこれからあの部署でやっていく自信はない。 腕組みして考えていた四方堂君が、うんうんと頷いていた。 「でも、芽衣子さんのミスでないとしたら…誰かが抜いたってこと?」 あや美は自らの言葉に凍りついたふうになった。 「あ!私は違う!ね、四方堂さん。開封した時は一緒にいましたよね?」 四方堂君はうんそうだったと、しっかり答えた。あや美ぃ、あんたは一番疑いから遠いキャラなんだよね。 「芽衣子、この印鑑見せてくれる?」 四方堂君は何を思ったか、差し出した私のシャチハタをジッと見つめ、そして徐ろに割り印の隣に同じように押印した。 三人の頭が封筒に押された陰影を比べるためにくっつかんばかりに寄り集まった。ちょっと異様な光景だったらしく、店内で気づいた客がジロジロと眺めているのが目の端で分かった。 二つの割り印は同じように思える。四方堂君の押した方は、少し右に傾げていた。 「同じかぁ…」 「剥がして戻したという細工もなさそうですしぃ、ってそこまでするかなぁ」 私は暗い気持ちに沈んでいた。 「これって…職場の誰かなんだろうね…」 私の呟きに、2人も同意の無言で答えた。
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