2.終わりと始まり

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今夜のところはこのまま帰る事になった。盗難届けなど、警察に届ける訳には行かないとの意見は三人共一致し、どの道、お金の不始末は私の責任なのだからと、2人には再度訴えた。 四方堂君は、『週明け、本部長には知らせよう』と言った。 気が重かった。報告してなんになるの?と喉元まで出かかったが、隠したところでなんになる、だ。 それぞれ帰る路線が違うので、駅コンコースで2人とは別れた。 お互い口に出さなくても、今夜の約束は無しなのだと、四方堂君も私も了解していた。 私は、ホームに上がる階段を見上げながらため息をつき、バッグの中を覗き込む。 白い小さな紙袋がいくらかくたびれた感じで収まっている。盗人は、この紙袋の中を覗いただろうか。 プレゼント用に包装された四角いもの。しわ加工された紺色の包み紙に銀色のリボン。いかにも男性へのプレゼントだ。 私への悪意を持った者は、これを見て、どんな事を思ったのか…。それとも紙袋の中身を見ることはなかった? 私は、最早、これを四方堂君に渡す気が削げてしまっていた。なんだか、もの凄いケチがついたような気がするのだ。 だからと言って、自分で使う気もしない。『捨ててしまおうか』バッグから紙袋を取り出して、バッグと一緒に手に下げた。 私はホームには上がらず、そのまま新宿の街へと戻ることにした。なんとなく、『捨てる』イメージが出来かけていた。 今夜の出来事は、厄日の続きなのだろうか。『じゃあ、厄日じゃなくて厄年ってこと?』女の厄年って何歳だっけ。 正直、厄なんて気にしたことなどなかった。だいたい信じてもいない。昔と今とはなにもかもが違うのだ。 でも、こんなふうに嫌な事が続くと、厄のせいなのだから自分ではどうしようもないことなんだって思いたかった。
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