2.終わりと始まり

11/32
前へ
/310ページ
次へ
各駅停車の快速でゆっくり最寄り駅に帰りつく。 タクシー乗り場は大して混雑もしておらず、ほんの5分ほどで空車がやってきた。 住所を伝えながらシートに体を任せたら、ふぅっと長いため息が出てしまった。 と、そこへ、白くて大きな物体が私をシートの奥へ安安と移らせ、隣に乗り込んできた。『えっ、イエティ?』 驚きすぎて声が出せずにいたが、それは人間の男で、白いモコモコのパーカーを着ていただけだった。 しかし、問題はその正体だ。私には無かったことにしたい恥ずかしい思いをした相手。名前なんて知らない。バスで、お惣菜屋で、スーパーで会ったストーカー野郎だ。(ストーカー確定はしていないが) 「ちょっと!なんなの?」 とんがった私の声音を気にするでもなく、ソイツは笑顔で私の住所の番地を告げ、発車を促していた。運転手は困り顔で振り返り、私にどうします?と聞いてくる。 「同じ所に帰るみたいなんで、同乗させてくださいよ、お姉さん」 「は?なに言ってんの!?なんでうちの住所知ってるわけ?運転手さん、この人知らない人なんです。私、ストーカーされてます!」 運転手は、グルッと体を回してソイツをみつめると、「本当?」と尋ねている。なんとなく面倒くさそう。 「まさか。俺、そこまでやるほど馬鹿じゃない。コレ見て」 ソイツはパスケースの中を運転手に見せていた。 すると、運転手は『了解ぃ』と唸り、ハンドルに向き直って発車させてしまった。 「はい!?なんでっ?」
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加