2.終わりと始まり

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私は驚いて運転手とソイツを交互に見る。 「後ろ、空車がつかえてたし、次のお客さんも外で迷惑そうでしたんで」 運転手はそう言い訳をした。 「だから、同じ所に帰るんだから、構わないでしょ?」 そいつが繰り返す。 「同じって…アンタ、うちを知ってるの!?」 私の興奮は止まなかった。すると… 「だって、案内してくれたじゃない。ヘンゼルとグレーテルみたいに」 ハッとした。ゴクッと唾を飲み込んだ。 やっぱりだ。やっぱりだった…。 あの日の卵、私だと知ってるのだとしたら、すぐ後ろを歩いていたのだろうか。 たまたま同じ方角に歩いていたら、アパートから私が飛び出してきたところを見掛けたとか。 いずれにしても、私はもう、ぐうの音も出なかった。 一緒に帰るだけだ。タクシー降りたら、アイツが去るのを見届けるまで、アパートに入るのは止めておこう。 ムスッとして、腕組みをしながら運転手のヘッドレストを睨んだ。私のささやかな抗議。 「ね、今夜はクリスマスパーティー?俺はね、職場の飲み会だよ、新宿で」 新宿と聞いて、チラッとソイツを見たが、ヤツは前を向いたまま私に話しかけていた。 「なんだっていいでしょ、関係ない」 私はつんつんした態度をとって、今後一切コイツが関わろうと思わないようにと、牽制をしているつもりだった。 「早めに解散したんで、ちょっと、喫茶店でコーヒーでも飲んで帰ろうとしたらさぁ」 『え、喫茶店!?』私はソイツを振り向いた。まさか…なに?どっちの喫茶店?なにを見たの? 「はい、忘れ物」 ソイツは私が置いていった紙袋を目の前にブラブラさせていた。 「はっ」 「カウンターに忘れていったの、持って追いかけたけど、見失ってさ。まぁどうせ家知ってるから、後で届けようかと」 それで、タクシーに乗り込む私を見掛けて大胆な行動に出たのね。 「…どうも」 私は有り難くない気持ちのまま、そう言い、紙袋を受け取った。 「それってプレゼントでしょ?ダメだよ、忘れていっちゃ」 何も知らないくせに。お節介野郎め。
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