49人が本棚に入れています
本棚に追加
プレゼントを捨てるために計画的に置いてきたのに。気持ちのこもったものを捨てる際の罪悪感を軽くするために。
私は喫茶店に忘れた振りをして、後で店に電話をかけるつもりだった。『もう取りには戻れないので、良かったらもらってください』
ゴミ箱にポイとはできなかった。
あの喫茶店にいた若い店員の男の子。あの子にプレゼントを使って貰えたらと思って店を出たのだ。
四方堂君への気軽なプレゼントのつもりだっけど、結局、心には重りになってしまった。
それを手放して、すごく気分が軽くなった気がしていた。
『なのに…コイツが台無しにしてくれた』
私はものすごく腹が立っていた。
タクシーがアパートの前で停まった。料金は私が払った。
すると、先に降りたソイツが腰を屈め、会計中の私を覗き込む。半額以上になる千円を私の前に差し出した。
「要らないわよ。アンタなんかいなかったと思うことにしたから」
私の憎まれ口など意に介さず、ソイツはニコニコと私の開けっ放しだった財布にお札を差し入れた。
「じゃあ、おやすみぃ」
そう言うと、スパッと立ち去った。私は慌ててタクシーから降りると、アイツが隣のアパートの敷地に入っていくのが見えた。
「え?ここだったの?」
お隣だったのか…。呆然とする私に、運転手が声を張り上げた。
「お客さん、お釣りお釣り!」
私はお釣りを受け取り、タクシーを見送った。
最初のコメントを投稿しよう!