2.終わりと始まり

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あや美とは社内だけのつき合いで、プライベートで会うなど今までなかったし、会おうという話もした事がない。 例の件が気になって仕方がないという事かもしれない。 『いいよ。1時間後にK駅北口で会いましょう』私は最寄り駅でランチがおいしい穴場を頭に描いた。もし、あの話になっても、周りを気にせず話せそうな店がいい。 バスの時刻を確認して、ゆっくり支度してアパートを出た。 約束より少し早めに着いたけど、バスの中から既にあや美の姿を見つけていた。 「芽衣子さぁん!」 降車口でまだ降りきる前に、あや美が手を振りながら停留所まで駆けてきた。 『子どもみたいだ』と、ちょっと笑顔になった。久しぶりに笑ったような気がして、我ながら驚いた。 並んで歩きながら、あや美は周りをキョロキョロとうれしそうにしていた。どうやらこの界隈は初めてらしい。 数分歩いて、穴場のイタリアンに着いた。イタリアの裏路地にありそうな小さくて古くて居心地のよいお店。丸テーブルに自分で好きに椅子を足せる。 私は小さな店の小さなドアをあや美に開けてやり、あや美の背中を見ながら店内に入っていった。
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