2.終わりと始まり

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「ここよ」 アパートに着くと、そのあまりにみすぼらしい安アパートに驚いたかも知れなかったが、あや美は機嫌よく私に付いて部屋に上がった。 「わぁ、普通に綺麗にしてるぅ。芽衣子さんはこんなふうに暮らしてるんですね。なんかいいなぁ、一人暮らしぃ」 あや美は実家暮らしだ。都内の大きな団地に、もう20年以上暮らしていると聞いていた。 私とそう変わらない手取りだろうし、自活できないわけはないだろうから、多分、実家の居心地がいいのだろうと想像できた。ある意味うらやましい。 「あんまりボロいアパートなんで、ビックリしたでしょう?」 私はそういうところに見栄とか恥じらいとかを感じなかったが、人によっては驚くチョイスだ。特にセキュリティー面では引かれるかもしれなかった。 「そんなことないですよ。まぁ、1階というのは怖いですけど」 あや美の指が、掃き出し窓のサッシの鍵をしきりにチェックしている。 近隣は一戸建ても多い住宅街で防犯意識が高いし、アパートの近くに大家さんが住んでいるからわりと安心して暮らしていると説明すると、あや美は一つ一つ納得していた。 ティーバッグの紅茶をいれて、さっき買ったクッキーと薄焼き煎餅をお皿に並べた。自立以来6年の間、来客は無く、こうやって人様にお茶を出すなんて初めてだった。
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