1.厄日

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同じ階にあるミーティングルームはオフィスから離れているので、歩きながらもの問いたげなあや美の視線を躱すのに、手元のファイルに顔を埋めた。 ミーティングルームに入ると、続々と人が続く。 お腹の痛みが強くなってきていた。この分だと昼前には腰まで痛むことになりそうで、あや美か誰かに痛み止めを持っていないか聞くだけ聞いてみようかと思いを巡らせた時、本部長が姿を見せ、朝礼がすぐさま始まった。 朝礼は着座せずに行うのが慣例だった。 ミーティングルームは、部屋の半分以上に渡り楕円形の会議デスクが鎮座するが、そこは使わない。 デスク以外のスペースがフリーになっていて、我が部署はそこで本部長と相対するように、19名が数人ずつ前後に重なり合いながら、各々、積極的に発言するのだ。 朝礼自体は10分程度で終わる。詳細までを説明する訳では無いから。 私は大抵、列の最後尾にいて、ドアを背にしていた。終わってすぐ、皆のためにドアを開けておくため。なんとなく、そういう細かい役割を習慣にしてしまっていた。 本部長以下、数人のホウレンソウ。 キョロキョロと周りを見渡し、粗方終わったと見た四方堂君の報告事項が始まった。 私は緊張した。 『平常心平常心…』心の中で落ち着こうと唱えるも、頬が赤らむのが自分でも分かった。 「…報告は以上です。他に無けれぱ…恐縮ではありますが、ちょっと、プライベートの報告を…」 四方堂君は少しばかりはにかんだ様な笑顔で頭をポリポリ掻いた。 それを合図に同僚達がざわつき出した。 「なんだなんだぁ?」 皆が四方堂君を茶化し、場の空気が変わった。
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