2.終わりと始まり

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新商品展開のための、市場調査を請け負う調査会社で打ち合わせ。ニーズを予測して、それに付随した調査も同時に行う。 何度も依頼したことのある会社で、担当者(40代、独身、女性)とも顔見知りだが、会う度に飲みに誘われるのが苦痛だった。 相手方は、それを見越してわざわざ定時近辺に打ち合わせを入れてくるのが姑息だと思っていた。 打ち合わせ後、会社に戻らないと、という文句を3回は言った。やっと振り切り、四方堂君にLINEを入れたのは5時半だった。 オフィスに戻ると室長以下数人がまだ仕事をしていて、四方堂君もパソコンに向かってなにやらやっていた。 私は、明日の朝礼である程度形のある報告をしたくて、先ほどの打ち合わせ内容を室長とすり合わせようと考えていた。 ところが、『あれ!?』ない。ファイル一式…あっ! 思い出した。コートを着るのに、一度荷物をソファーに置いた。バッグと書類封筒を。 その時、担当者がしつこく飲みに誘ってきて、私は慌てて腕時計を確認した…ら、四方堂君の顔が浮かんできて…バッグを掴んで出口に向かったんだっけ。 あぁ、多分、その時書類封筒を置き忘れたんだ。やってしまった…久々に。 でも、デバイスがあるからなんとかなる…と思ってバッグの中を探すも、それも書類封筒の中だと思い出す。万事休す。 棒立ちのまま頭を垂れた。
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