2.終わりと始まり

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「松浦さん、打ち合わせどうだった?」 室長から問われ、「はい…」との力ない声に、その場の者が全員固まった。 「…どした?なんか、やった?」 不安な声で聞いてきたのは、別のベテラン社員さん。『あった?』じゃなくて『やった?』だもんね。悲しい。 私はすぐ様電話に取りついた。 番号!…番号は、携帯を見たら分かる。あぁ、でも、この後に及んで先方から連絡すらないということは、もしかしたら、私の忘れ物に気がついてないのかも。 あの担当者は、飲みに行きたがっていたし、もう帰っちゃったかも…。 携帯から調査会社の代表をダイヤルした。暫しのち、男性の声で、社内の者は全員退室したとのことだった。テナントビルの警備員らしい。 仕方ない…室長には、口頭で説明をして、朝礼での報告の内容については指示を受けよう。 「松浦さん、久々にやったね。忘れ物」 誰かが言った。オフィス内に笑い声が響いた。 ほとんど余興のようなもので、こういう軽度のミスに対して、周りはとことん笑ってくれる。 だけど、笑って、許してくれる訳ではない。自分の尻拭いは自分でやるわけだから、それだけ面倒を抱え込むのだ。 私は、パソコンに向かい、先方担当へのメールを作成した。明朝、忘れ物を取りに行くと。 そうこうするうち、四方堂君以外がデスクを離れ、帰るようだった。 「松浦さん、どうする?帰るだろう?」 室長から聞かれたけど、バツが悪すぎて苦笑い。 「どうぞ、お先してください…お疲れさまでした」 落ち込んだままそうと言うと、また、笑いが起こった。それ、マジでへこむから勘弁して欲しい。
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