2.終わりと始まり

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「芽衣子、行くぞ」 フロアーから人気がなくなると、急にパソコンから顔を上げた四方堂君が言った。 「う、あ」 私は少しばかり動揺したが、「分かった」と、パソコンをシャットダウンして、既に歩き出した四方堂君を追いかけた。 駅まで一緒に歩いたが、話らしい話はせず、人目を気にして、電車では離れていた。 新宿のbarにも別々に着いた。 テーブル席につき、ビールとピザを注文した。お腹が空いていたが、ここは食事らしいものは他にペペロンチーノぐらいしかないのだ。 「話って?」 私は早めに終わらせたくて、早速切り出した。 「うん。実はさ、俺…」 ビールが来た。付け合せはナッツ。 話が途切れたが、構わず空きっ腹にビールを流し込んだ。乾杯なんかしない。 喉も乾いていたから、ゴクゴクと喉を鳴らしてグラスの半分ほど飲んで、プハァと唸った。オヤジだね。 四方堂君も同様だった。 「で、どうしたの?」 口元の泡を拭い、四方堂君が静かに口を開く。 「…来月、異動になる。一日付けだ」 「え?」 あんまりびっくりして、なにも言葉が出てこない。 「営業部だ」 ま、なんか納得。いろんな事が納得だった。頻繁に外出していたのも、もしかしてそっちの用件だったんだね。 「…本部長がよく受けたね」 四方堂君のような人が企画室に留まってきたのは、本部長が離さなかったからに違いなかった。 「まぁね。もっと早くても良かったぐらいだよ」 上昇志向の四方堂君らしい。 「そっか…なんか寂しくなるね」 もっと聞くべき事があったかもしれない。でも、なにも頭に浮かばなかった。四方堂君がいないオフィスなんて、考えられない…。 「うん…芽衣子…」 「ん?」 四方堂君は歯切れ悪かった。珍しい。なにか言いにくいことを言おうとしてる?
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