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それは一縷の望みだと分かっていた。私にははっきりと記憶の映像があったのだ。
USBはバッグのファスナーポケットにいつも入れていた。自分自身の傾向として、紛失を一番に恐れていた。
なのに昨日、打ち合わせに出掛ける時、面倒くさがって書類封筒にいっしょくたにしてしまったのだ。
だから、もし、拾った書類封筒を先方で中身を確認するかした時にどこかに落としていたとすれば、今ここにない理由になる。
担当者が出た。
「先ほどはわざわざありがとうございました」
早口にまずはお礼を述べた。向こうがなにか言い返す前に、畳み掛けるように言葉を続ける。
「それで、封筒の中身を確認した際に、中のものを知らずに落としていたりなんてこと、ないです、よね?」
いささか失礼な話だと思ったが、単刀直入に伝えてしまった。
だけど、あの担当者は気にする風もなかった。
「いいえ、封筒は開けませんでした。松浦さんの忘れ物だとすぐ分かりましたし…なにか紛失されたのですか?」
心配の言葉を添えてもくれ、あの厚かましいように感じていた担当者が、こんなにいい人だったのだと、ホロリとなりそうだった。
「あ、そうでしたか。それは失礼しました…はい、あの、USBが見当たらなくて…いえ、私の記憶違いかも知れませんので、お気になさらず…」
電話を切って、私は途方に暮れた。暫し茫然の体で、椅子の背にもたれて放心した。
「芽衣子さぁん…大丈夫ですか?どこに行っちゃったんでしょうねぇ」
あや美は私を労りながら、机の上に散らかった私物のゴチャゴチャを避けながら、探すのを手伝ってくれていた。
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