3.不信

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ミーティングルームはもちろん無人で、四方堂君は、入り口から離れた上座の窓際に私たちを座らせて、自分も椅子を寄せてきた。いかにも内緒話をするんだという感じがする。 「さっき、芽衣子もあや美ちゃんも席を外していたんで、芽衣子に来客の連絡があった時は滝沢さんが受けたんだと思うんだ。それがなぜか、守谷さんが受けたみたいな話になってるのが気にかかっている」 「え?滝沢さん?」 うんうんと頷きながら聞いていたら、意外な名前が出てきて驚いた。 「滝沢さんてば、さっきはいなかったですねぇ」 「多分、芽衣子への言伝てを守谷さんに頼んで、用事で出たんだと思うけど…」 四方堂君は、なにやら考えていた。いや、この感じだと、考えて、既に結論が出ている。なんか言い出しづらそう。 「どう言うこと?」 あや美はじっとなにかを思い出そうとしているみたいで、人差し指を眉間でトントンしていた。 「俺、なんか不自然な感じがしたんで、滝沢さんが守谷さんに書類封筒を渡していた時、見ていたんだ。なんかさ、わざわざデスクの島から遠ざけて内緒話をしているみたいな感じだった」 確かに怪しい。滝沢さんと聞いて、私には思わぬ伏兵といった感じがした。 ベテラン派遣社員の彼女は、まず目立たない。仕事はきっちりやるが、地味なので、なかなか評価もされないような損な性格なんじゃないかと思う。 もう長くて、私が入社してきた時には既に同じ仕事をしていた。 早川先輩とは馬が合う様子だったが、仕事中に無駄話をする人ではなく、私はほとんど話らしい話をしたことがなかった。
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