3.不信

9/33
前へ
/310ページ
次へ
「ねぇ、あや美。昨日言った陽動作戦のこと覚えてる?」 ラウンジで、会費の件を話した時、みちるに知らん顔をしながら話を聞き出すという結論になっていた。 「勿論ですぅ」 私は、四方堂君にもこの時のことを説明した。 「あや美、それ、今日のランチで実行してきて」 紛失したデータは、とにかく時間がない。もう、仏心を出している場合ではなかった。でも、私は、みちるには強く出ることが出来なかった。 罪悪感とか負い目のようなものがあったのだ。ただ、だからといって、盗みや嫌がらせを許すつもりはなかった。 私はいつしか、滝沢さんが単独の犯人ならいいとの思いでいた。 みちるは、いつも滝沢さんとランチに出る。四方堂君と相談して、滝沢さんに昼休みにかかる急ぎの仕事を頼むことにした。 『その代わり、オーバーした分、午後の開始が遅くなってもいいから』 滝沢さんが他部署での作業をしている間に、あや美がみちるを誘い出した。あとは、あや美に任せよう。 仕事納めという事で、就業時刻の1時間前までに各自仕事を切り上げ、簡単に机の周りなどを片付ける。業者の清掃部分は共有のスペースだけだった。 そして、納会は、あや美と若手男子社員が買い出ししたビールと乾きもので乾杯するのだ。 できればこの納会までにはUSBを取り戻したい。でなければ、恐らく私に納会はないものと思えた。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加