3.不信

12/33
前へ
/310ページ
次へ
ミーティングルームでは、派遣の2人が椅子に座っていた。みちるは不安を表情に浮かべ、滝沢さんは不穏な空気を身に纏っているかのようだった。 2人から距離を取り、四方堂君が壁に寄りかかっていた。表情にはなにも出ていない。 私は四方堂君に黙礼をして、2人の側に立った。 「あの、なんですか?こんな所に…」 まずは、滝沢さんが牽制球。 「ごめんなさいね、作業中に。今日中に終わらなくても構わないから」 すると、そこへあや美がやって来た。場の空気を読むように、慎重に部屋の奥へと進む。私は、あや美にも椅子を勧めて自分も2人の前に座った。 「滝沢さん。単刀直入に言いますね…私のUSBを返してください」 滝沢さんの顔が歪み、赤みも差してきた。 「はい?なんのことでしょうか?」 「え?滝沢さんが?」 滝沢さんはとぼける気だ。みちるは驚きの声をあげた。 すると、あや美が言葉を挟む。 「みちる。もしかしてだけど、芽衣子さんの書類封筒は、滝沢さんから芽衣子さんに渡すよう頼まれたんじゃない?」 あや美も直球だ。 滝沢さんは無言でみちるを見つめてる。みちるは事の重大さが分かっているだろうか。不本意に、罪の片棒を担がされているということも。 「え…あの…はい、確かに…」 「なに?ちゃんと言って」 充分聞こえていたけど、強めに促す。みちるは緊張しながらも背筋を伸ばして息を吸い込むと、一気に言葉を押し出した。 「はい、確かに、書類封筒を松浦さんに渡してくれと滝沢さんから頼まれました」 言ったことで、みちるは滝沢さんへの視線を外し、気持ちを固めたようだった。 「その事、口止めされたのね?」 「はい」 「口止めするなんて、おかしいと思わなかった?」 私には一番気になる点だった。みちるがこの点に気がつけば、こんなことにはならなかった気がするのだ。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加