3.不信

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「私は…おかしいとは思わなかったんです。まさか、滝沢さんがこんなことするなんて、今の今まで」 「信じていたのね?」 「はい」 「分かった…滝沢さん、あなたはみちるの信頼を利用したのね」 滝沢さんは、みちるから目を背けて、やや斜め下方に視線を向けていた。いや、彼女は、誰からの視線を避け、誰の目も見られなかったのだろう。 私の問い掛けをだいぶ溜めて、滝沢さんは「チッ」と、小さく舌打ちをした。 「滝沢さん?」 すると、事務服のポケットに手を入れて、私のUSBを取り出した。 『あった。良かった…』私は、心の中で安堵の声をあげていた。 滝沢さんから受け取り、しみじみとそれを見つめた。 「別になにもいじってないから」 滝沢さんはそう言った。 「滝沢さん!」 あや美は怒り心頭に発すといった様子だ。謝れとでも言おうとしたのだろうが…。 「謝らないから」 滝沢さんのこの言葉に、その場の誰もが凍りついた。 改めて滝沢さんの顔をじっくり見ると、斜に構えた横顔には、疲労と悔しさが同時に浮かんで見えた。 滝沢加乃、35歳、独身。彼女が、なぜ私を貶めようとしたのか、理由は分からなかったけれど、なにかがそうさせたのだということは理解できた。 そうしなければ、いても立ってもいられなかったのだと。 「あや美、悪いけど、みちると一緒にオフィスに戻っていてくれる?あと、四方堂君も」 お願い、と付け足して、私は滝沢さんと2人きりになろうとした。 意外だと言う顔つきで、3人は出ていった。滝沢さんもそんな表情で私を見つめている。
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